「ちいさなうさこちゃん」(ディック・ブルーナ文/絵 石井桃子訳 福音館書店)

このオランダ生まれのうさぎは、イギリスの「ピーターラビット」と並んで世界中で最も有名なうさぎと言っても過言ではないでしょう。「ミッフィー」で覚えている人もいるでしょうが、それは英訳した時の名称で、特に意味があるわけではありません。元々オランダ語でうさぎは「コネイン」それにかわいらしいものにつける「チェ」という呼称と合わせた「ナインチェ」はブルーナが作った造語なのです。そのことを知った石井桃子さんが「うさこちゃん」と訳したのでした。1955年以来50か国以上で翻訳、シリーズも数十冊を数えます。  
シリーズ最初のこのお話は、受胎告知の形でうさこちゃんの誕生が描かれています。生まれたばかりのうさこちゃんを見にいくのが、羊ではなく、にわとりと牛というのがおもしろいですね。初期の作品では、登場する動物のほとんどすべてが真正面を向いています。この本の表紙はもちろん、最初のタイトルが書かれている扉の左ページのうさこちゃんは、左から右へと歩いていますが、顔は正面です。これではぶつかってしまいます。お父さんの「ふわふわさん」や「ふわおくさん」天使や牛も読者と対峙して目と目が合うように描かれているのです。以前紹介した「かおかおどんなかお」のようにアイコンタクトを60年以上も前からブルーナは意識していました。そしてダイナミックなデザインをはっきりした形で縁取る太い輪郭線と鮮やかな色彩。幼い子どもたちの目を引き付ける要素がちりばめられています。安心した気持ちで絵本の世界に入り込むことができるのです。
残念ながら、ブルーナは昨年亡くなりました。けれどもこのシリーズは、これからも多くの子どもたちに愛され続けていくことでしょう。

(文・吉井康文/こぐま社前社長)