『モリオカえほんの森保育園』開園を迎えて 前編

 公募設置管理制度(Park-PFI)により、民間主導の都市公園経営が始まる盛岡市中央公園で、その第一弾となる「モリオカえほんの森保育園」が開園しました。開園にあたり、建築設計を担当して下さった atelier meie 一級建築士事務所 の木村暁さん、木村彩さん、園庭デザインを担当して下さった株式会社キタバ・ランドスケープの斉藤浩二さん、斉藤隆夫さん、施工を担当して下さった有限会社杢創舎の澤口泰俊さんにお話を伺いました。

中央公園パークPFIから生まれた
『モリオカえほんの森保育園』

── 開園を迎えて、いまどのようなことを感じていますか?

濵田和人 (株式会社みんなのみらい計画 代表取締役) :

 振り返ると盛岡市から中央公園パークPFIの案内が来たのが2018年8月頃、開園を迎えるまでちょうど2年が掛かりました。地方の生活はどうしても意識が中央に向いていくようなライフスタイルになりがちですが、中央公園パークPFI第一弾のアナウンスが耳に入ったとき、中央へ向くようなライフスタイルではなく、「新しい働き方を提案できるのではないか」という直感みたいなものがありました。

 それから南部鉄器のタヤマスタジオ田山社長と、飲食店経営のMDS小松社長との出会いがあり、3社で事業内容を議論する中で、atelier meie の木村姉妹、キタバ・ランドスケープの斉藤さんと不思議なご縁をいただいたものの、事業者選定も始まらず事業計画もどうしたら良いのか暗中模索の状態がしばらく続きました。しかし、ひとつひとつ霧が晴れていくように方針が見えて、2019年5月にわたしたちの提案が市から選定されました。その後、準備を進めていく中で、「一緒にやりましょう」と仙北造園さんやAI事業を全国展開する LIGHTz の乙部社長が集まって下さいました。

 地方の盛岡市にあって、「ここでしかできない働き方を目指したい」、そのなかで『まなびやプロジェクト』という不登校の子どもたちがどの事業でも職場体験することができ、その体験を通じて新しい働き方を実践していく、そのような力を育んでいこうという趣旨に各事業者が賛同し、その第一弾として保育園がやっと完成しました。建設にあたっては、建築設計を atelier meie さん、園庭のデザイン監修をキタバ・ランドスケープさん、施工を杢創舎さんにお願いしました。

 みなさんの熱い想いがこの公園に集結して、これからの時代の新しい働き方を、この公園のコミュニティから発信していけたらと思っています。わたしも不安と期待の交錯する2年間でしたが、このように無事保育園舎が完成して、子どもたちを10月1日から迎えられることを本当に嬉しく思っています。

木村暁・木村彩 (atelier meie) :

 本当にたくさんの方の力と助言をいただきながら、開園を迎えることができて嬉しい気持ちでいっぱいです。2年前、濵田さんをご紹介いただいた時、その場で設計の依頼を頂きました。その時は保育園の設計自体が初めてだったので不安もありましたが、それから保育園の考え方、保育についてのお話を伺いながら、自分たちなりに勉強して、気持ちを込めて設計してきました。

 施工して下さった杢創舎さんには、予算と工期が厳しいなか、素晴らしい材を惜しみなくご提供いただき、また、素晴らしい職人さんをたくさん投入して頂きました。澤口社長をはじめ、施工管理を担当してくださった現場監督の佐々木さんと藤原さんには施工に関して様々なことをご相談させて頂き、ご協力頂きました。園庭はキタバ・ランドスケープの斉藤さんにご相談して、とても素敵な庭をデザインしていただいています。皆さんのご協力があって、自分たちが思い描いていた以上の保育園ができたことをとても嬉しく感じています。

斉藤浩二 (株式会社キタバ・ランドスケープ 代表) :

 atelier meie の師匠である建築家の中村好文さんと親交があり、その縁で木村さんから声をかけていただきましたが、すごく夢のあるスケールの大きなお話だったので、ぜひ僕で良かったらということで関わらせてもらいました。大体、良い話というものは続かないものですが、不安も入り混じりながらも、たった2年でこのような形で開園を迎えたことは本当に素晴らしいことだと思います。

 とはいえ、この園庭は実のところは未だ完成していません。この場所には、ロータリークラブの皆さんがどんぐりの森を作るということでたくさんの木を植えています。ですから、建物以外の場所にあるどんぐりの木はなるべく残す方針で、どんぐりの林のなかに保育園があるような形になっています。

 今後は保育園を皮切りに園庭の向こう側に大きな公園を作る予定で、この先20年間、管理していきます。大きな原っぱで美味しいものが食べられたり、ファーマーズマーケット、スケートボードを練習する場所、鉄瓶やホームスパンのアトリエもできる予定です。非常に楽しく役に立つ、雨や雪の日は屋内でくつろげる、そういう建物が4つも5つも並びます。ですから、個人的には、日本一の公園になるんじゃないかと思います。と言っても、日本一というのは最高という意味ではなく、日本にひとつ、オンリーワンという意味です。それを皆さんと楽しみながら一緒に作っていけたらと思っています。

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 わたしたち杢創舎は盛岡で一般住宅に携わらせてもらっている地域の工務店で職人集団です。ですから、最初はわたしたちのような小さい会社がこのような大きな建物を作ることができるのか、という不安がありました。しかし、atelier meie さんの手厚い設計監理やご指導のおかげでなんとか無事完成することができました。本当に有難うございます。

 ここの現場で職人と汗を流して頑張ったのは、創業20年わたしとともに仕事を学び成長してきた2人の設計工事の担当者です。彼らがいたからこそなし得た仕事だったことは、ここでしっかりお伝えしておきたいと思います。

絵本と森に囲まれた
家のような保育園

──「えほんの森」と名付けた理由を教えてください。

濵田和人 (株式会社みんなのみらい計画 代表取締役) :

 子どもたちが最初に外の世界に触れる一番の入り口は絵本だと思っています。絵本と言ってもいろんな絵本があって、食べ物の絵本、自然の絵本、動物の絵本とありとあらゆるジャンルが絵本にはありますが、子どもたちはそれを開いて見ることによって、外の世界、この自分の住んでいる世界を認知していく、と感じています。また、周りの保育者が絵本を読んであげることによって、子どもたちは自分の近くにいる大人を信頼していくという経験も同時にできると思います。だからこそ、この保育園は絵本を大切にしていく場所にしたいと考えました。森の中にあって、絵本もあって、というところで「えほんの森保育園」という名をつけました。

── 園庭に立つと不思議な安心感がありますが、何か意識して設計されたのでしょうか?

木村彩 (atelier meie) :

 設計の初期の段階で、高さのボリュームをできるだけ抑えた切妻屋根の平屋の建物にするということと、既存のどんぐりの森を囲うような「くの字型」の建物というイメージが湧いてきました。

木村暁 (atelier meie) :

 それは園庭で遊ぶ子どもたちを建物が見守るというイメージから連想されたものです。そのようなイメージを図面をひきながら膨らませてきましたが、実際完成して、そのイメージ通りに建物が子どもたちを両手を広げて包み込んでいるような姿が想像できて、やはり最初のインスピレーションを信じて進めてきて本当に良かったと思いました。

──設計する上でのコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?

木村彩 (atelier meie) :

 濵田さんから保育園は、本来なら家で過ごす子どもたちが親御さんの仕事の都合で預けられる場所だから、出来るだけ家で過ごしているような保育園にして欲しい、というお話を伺いました。わたしたちはずっと住宅の設計を専門にしてきたので、当初、初めての保育園設計に少し不安を抱いてましたが、そのお話しを聞き、それならいつもやってきた住宅の大きいものを作れば良い、という発想に変わっていきました。ですから、『家のような保育園』というのがこの保育園の一番のコンセプトです。

 また、幼少期に天然の無垢の材料に直接触れられるという、貴重な経験ができることも大切なことだと思っています。

正真正銘の県産材ばかり
長い歴史を生きた木が保育園を見守っていく

──保育園で使われた木について教えてください。

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 食堂ホールの天井には、綺麗なアーチになった木があります。これは岩手県を代表する南部アカマツ。この木の樹齢は85年で、盛岡の街を水害から守った木です。100年ほど前、大雨で中津川が氾濫した際、水害を防ぐために川の上流に植えられたものだそうです。大正6年に植えたという記録が残っていた木を直接山に行って購入し、伐採して運んでいただいた後、自分たちで製材して5年間乾燥させました。太陽の熱で乾かすのではなく、屋根の下、玉山の澄んだ風で乾かした逸品です。構造的に丈夫に使えるように無理を言って曲がったまま通常より長く5-6mで切ってもらっています。ですので、85年生きた木は、これから100年以上、この園を守ってくれるはずだと思います。そして丸太を製材すると大きな幹だけではなく、板関係も製材で取れますので、ちょうど窓際の枠や本棚のカウンターなど、丸太を全部使わせてもらっています。

── 立派な赤い柱は何の木なのでしょうか?

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 (3-5歳児の保育室可動ロッカーの両側にある)赤い柱は、遠野から運んできた樹齢100年のカラマツです。岩手でカラマツの植林を始めたのが100年前なので、初めて県内に植えられたものですね。これもわたしが直接山へ行き、馬が丸太を出す“馬搬”という方法で購入し、製材所まで運んできたものです。“槍鉋(やりがんな)” と言って、法隆寺と同じ作りでわたしたちの大工が手作業で磨いた丸い柱を使わせていただきました。

── 薪ストーブの上の黒い木はどのような木なのでしょうか?

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 薪ストーブの上の黒い木は「神代欅(じんだいけやき)」と言って、千年以上、土のなかにあった埋れ木なんですが、たまたま道路工事かなにかで掘り出されてわたしたちの手元に来ました。ですので、この黒い色は塗装ではなくて、土の中で地球や大地が作ってくれたものです。建設中にアカマツとか綺麗な色の木ばかりを提供していたのですが、atelier meie さんからちょっと色の濃いものが欲しいと相談があり、思わず引っ張り出してきました。「これ使って良いよ」と伝えてから価格を思い出したのですが、もうこれはプレゼントしなければと思いました。

木村暁 (atelier meie) :

 この食堂ホールの中心には、薪ストーブを据え付けているのですが、ちょっと特別な場所にしたかったので入口上部にゲートのような木を付けたいと思っていました。杢創舎さんにご相談したら、このような立派な木材が出てきて本当に驚いてしまい、恐れ多いという感じでしたが、ありがたく使わせて頂きました。

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 床もアカマツなんですが、これは一戸町の製材所から購入しています。外壁に使ったスギ板は宮古市重茂半島材ですね。この建物のどこを切っても岩手県のどこの地とわかる、正真正銘の県産材を使用してもらっています。