おとなも絵本を楽しもう! vol.1

かえるのごほうび

「日本の絵本のルーツは絵巻物」

 欧米で100年も前に出版された絵本が、今でも世界中の子どもたちに読み継がれています。「ピーターラビットのおはなし」(1902年 イギリス ビアトリクス・ポター作)、「ペレのあたらしいふく」(1912年 スウェーデン エルサ・べスコフ作)、「かしこいビル」(1926年 イギリス ウィリアム・ニコルソン作)「100まんびきのねこ」(1928年 アメリカ ワンダ・ガーグ作)などは、日本でもおなじみです。



 しかし日本では、戦前に出版された絵本は、一冊も残っていません。あくまで絵は文章の添え物で、挿し絵の域を出ることはなく、絵で物語るという考え方は根付きませんでした。ただそのルーツは、平安時代の絵巻物にまで遡ることができます。数ある絵巻物の中でも、日本最古の漫画とも称される国宝「鳥獣戯画」には、擬人化されたウサギ・カエル・サルなどが、生き生きと描かれています。文章は何一つ書かれていませんが、その仕草や表情から、語り合っている声や周囲の賑わいが聴こえてきそうです。



 作者は鳥羽僧正と伝えられていますが、到底一人で描かれたものとは考えられず、諸説あり謎に包まれています。どんな物語なのか、何のために描かれたのかもわかっていません。このユーモアと躍動感に溢れた絵を、子どもたちにも味わってほしいと、詩人・木島始が、絵巻物「鳥獣戯画」を大胆にも切り貼りし、新たな物語として再構築して、1967年に月刊誌「こどものとも」として発表しました。それを54年ぶりに一回り大きくし、新しく製版し直して出版されたのが「かえるのごほうび」です。800年以上前に描かれた絵巻物が、新たな装いで、新たな物語を得てよみがえりました。動物たちが繰り広げるいにしえのおかしみを、現代の子どもと大人が、一緒になって楽しめる絵本です。





 絵巻物の手法をヒントにして作られた絵本もあります。こぐま社の「絵巻えほんシリーズ」もその一つです。中でも人気なのが、馬場のぼるの「11ぴきのねこマラソン大会」(1984年)。31㎝×31㎝の大判に折りたたまれたページを引き出すと、ひと続きの3メートルにも渡るパノラマ画面が現れます。現在は、大き過ぎて本棚から落ちて危険との理由で、26㎝×26㎝になっています。「鳥獣戯画」同様、文字は一つもありません。すべて絵でお話が物語られているのです。

 「11ぴきのねこマラソン大会」でも、細かく描かれたマラソンコースの中に、様々な物語が織り込まれています。「11ぴきのねことあほうどり」に出てくる気球を追うだけでもストーリーがあります。最初21ぴきでスタートしたねこたちが、ゴールする時は11ぴき。そこにも物語はあるのです。また「11ぴきのねこふくろのなか」のウヒアハや馬場のぼるの親友だった手塚治虫ねこが登場したり、家族で絵を読む楽しさを味わえます。イタリアのボローニャ国際児童図書展で、子どもたちが選ぶエルバ賞を受賞したのもうなずけます。



(吉井康文)

「かえるのごほうび」(木島始作 梶山俊夫レイアウト 福音館書店)
「11ぴきのねこマラソン大会」(馬場のぼる作 こぐま社)

   
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